公益財団法人 宮城県結核予防会

結核・肺がんについて
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肺がんについて

肺がんについて

1) 肺がんはがん死亡の1位

肺がんは日本のがん死亡の1位で、2016年には73,838名(男性52,430名,女性21,408名)が肺がんで亡くなっています。肺がん死亡数は年々増加しており,1990年(36,486名)の約2倍となっています。人口の高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率を男女合計でみると,1990年代半ばをピークに漸減傾向にあるものの,胃がんに代わり2000年以降は肺がんが年齢調整死亡率の1位を占めています。

2) 肺がん発生数も増加しています

新たに診断されたがん患者数(がん罹患全国推計値)の男女合計を部位別にみると,肺がんは,2012年推計値にて,大腸,胃に次いで第3位で,113047名(男性76913名,女性36134名)となっています。肺がんでは罹患数と死亡数に大きな差はなく,肺がん罹患者の生存率が低いことと関連しています。

3) 肺がんの原因の第1はタバコです
肺がんの原因の第1はタバコです。肺がんは肺の気管,気管支,肺胞の一部の細胞が,がん化したもので,喫煙(受動喫煙も含む)との関係が深いがんです。吸う人が肺がんになるリスクは,男性で4.4倍,女性で2.8倍です。[1].
また,非喫煙者でも発症することがあり,受動喫煙による肺がん発症リスクは1.28倍と報告されています。[2].
日本で肺がんの原因に喫煙が関与する割合は男性で69%,女性で20%とされています。[3].
喫煙以外では,COPD(慢性閉塞性肺疾患),アスベスト,クロム酸などの職業性暴露,最近話題の微小浮遊粒子PM2.5などの大気汚染物質などが挙げられます。

[1] Wakai K, Inoue M, Mizoue T, et al. Tobacco smoking and lung cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol 2006;36:309-24.
[2] Hori M, Tanaka H, Wakai K, Sasazuki S, Katanoda K. Secondhand smoke exposure and risk of lung cancer in Japan: a systematic review and meta-analysis of epidemiologic studies. Jpn J Clin Oncol 2016;46:942-51.
[3] Katanoda K, Marugame T, Saika K, et al . Population attributable fraction of mortality associated with tobacco smoking in Japan: a pooled analysis of three large-scale cohort studies. J Epidemiol. 2008; 18: 251-264.
4) 症状にとぼしい肺がん

肺がんの一般的な症状としては,咳,血痰,息切れ,喘鳴,胸痛,嗄声などが挙げられますが,これらは肺がんに特有の症状という訳ではありません。また,肺がん患者さんの全員がこれらの症状を呈する訳ではなく,早期の肺がんの場合の多くは無症状です。したがって,症状が出てから肺がんの治療をしようとしても,必ずしも十分な効果が得られるとはいえません。

5) 肺がんの診断のための検査

肺がんは,症状がでないことが多いので,検診等で早期に発見することが重要ですが(後に詳しく述べます),一般的には,肺がんが疑われるときはまず胸部のX線検査,CT検査,喀痰(かくたん)細胞診を行い,病変の有無や部位を調べます。
その後,診断を確実にするためには細胞や組織を直接確認する病理・細胞診検査が必要となり,気管支鏡検査,経皮針生検などを必要に応じて行い,肺がんが疑われる部位から細胞や組織を採取します。最近では,採取した組織を用いて薬剤による効果を推測するための検査も行います。また,がんの広がりや他の臓器への転移の有無を調べるために,CT検査,MRI検査,PET-CT検査,骨シンチなどの画像検査を行います。

【胸部CT検査】
X線により,体の横断面を描いたり,得られた写真から立体構成を描いたりすることが可能で,がんの大きさ,性質,周囲の臓器への広がりなど,胸部X線検査よりも多くの情報が得られます。
【喀痰細胞診】
がんの組織からはがれ落ち,痰に混ざって出てきたがん細胞を検出する検査です。1回だけの検査ではがん細胞を発見しにくいため,数日かけて何回か繰り返し痰を採って検査します。
【気管支鏡検査(気管支鏡下肺生検)】
気管支鏡と呼ばれる内視鏡を口や鼻から挿入して気管支の中を観察し,がんが疑われる部位の組織や細胞を採取して調べます。検査前にのどや気管の痛みを軽減するため,のどの奥まで局所麻酔を行った上で行います。

詳しくは,以下のホームページをご覧下さい。
「国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス」http://ganjoho.jp/public/cancer/lung/diagnosis.html  2017/08/17

6) 肺がんの進行度と治療

肺がんは発見された時点で,患者さんによりさまざまな進み方をしています。
がんの進行の程度を「病期」として分類しています。
肺がんの場合,以下の3項目によって病期が決められています。
・T 癌の大きさや周囲の組織への直接の侵入状態で,大まかに4段階にわけられます
・N 胸部のリンパ節に転移しているか,それがどこまで進んでいるかで,4段階にわけます
・M 癌のできた場所以外の別の肺への転移や胸水,その他の臓器への遠隔転移の有無でおおまかに3段階にわけます。
病期は,Ⅰ期からⅣ期まで,大まかに4段階にわけられます。
4段階は,さらに細かく分類されており,癌の進行状況と,年齢,併存症,など身体の状態を勘案して適切な治療法を選択することになります。
病期と治療方法の大まかなめやすは以下のようになります。

病期 手術 放射線療法 薬物療法
IA期
IB期
IIA期
IIB期
IIIA期
IIIB期
IIIC期
IVA期
IVB期
7) 肺がんの予後と生存率

肺がんと診断された患者さんにはさまざまな治療が行われますが,その結果,5年後に何パーセントの患者さんが生存しているかを計算した結果が,5年生存率です。肺がん以外の疾患でも亡くなる可能性があり,相対生存率という形で補正して計算します。全国のがん登録の結果からみると,下図のように,種々の癌によりその値は異なります。肺がんは,胃がん大腸癌,子宮癌,乳癌などと比較して低いほうに属し,難治性であることがわかります。しかし,1990年台から次第にその値が増加して,2006-2008年の診断例では,男27%.女43%,男女わせて32%と,肺がんは治療の進歩により治りやすくなっていることがわかります。


国立がん研究センター がん情報サービス 癌登録・統計より引用
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html 2017/08/17

さらに,肺がんではより早期に発見され,適切な治療が行われる事で,より長期生存可能なことが知られています。
比較的高い水準で診断と治療が行われていると考えられる,全国がんセンター協議会32施設の2006-2008年に診断された登録例のデータが公開されています。臨床病期I期の場合は,86%ときわめて高い5年相対生存率が得られています。
症状のないI期の段階でいかにして早期発見をするかが大きな課題です。
がん登録のデータをみると,肺に限局してリンパ節や遠隔転移のないI期に相当する患者さんの割合は,残念ながら,25%程度にすぎません。


https://kapweb.chiba-cancer-registry.org
肺がんの5年相対生存率(全国がんセンター協議会32施設の2006-2008年の登録例のデータ)

肺がん検診の歴史と未来

1) 肺がん検診とは

肺がんの予防には禁煙がもっとも重要ですが,無症状の肺がんの早期発見には肺がん検診が有効です。自治体が提供する住民検診としての肺がん検診(対策型肺がん検診)は,40歳以上の男女全員に対する胸部X線検査と50歳以上で喫煙指数600以上の男女に対する喀痰細胞診(痰の中のがん細胞や異常な細胞を顕微鏡で検出する検査)となっています。尚,喫煙指数とは,一日の喫煙本数×喫煙年数から算出されます。


胸部X線検査は,主として肺野部の肺がんを,喀痰細胞診はヘビースモーカーに発生する,主として肺門部の肺がんを発見するために実施します。

また,対策型肺がん検診の他には,いわゆる人間ドック等で行われる検診もあります。これらの検診を受けるかどうかは受診者の任意によるので,任意型肺がん検診と言われます。
任意型肺がん検診では,対象者や方法が統一して規定されている訳ではなく,近年では,胸部CT検査が提供される場合もあります。
対策型肺がん検診では,集団全体の肺がん死亡率減少を目的とした公共的予防対策として実施されるため,有効性が確立した検診手法が選択されます。一方,任意型肺がん検診においては,必ずしも有効性が確立した検診手法が選択される訳ではありません。

2) 早期の肺がんを発見する

★ X線写真に写った,肺の中の影を探します。
小さく微妙な影で,見いだすことが難しいこともあります。

精密検査で,CT写真を撮影し,影の有無や性状を詳しく検討します。
直径が2cm以下のこともあります。

★ 痰の細胞検査(喀痰細胞診)により,がん細胞や前がん状態の細胞を探し出します。
このタイプのがんは,ヘビースモーカーの方にのみ発生します。

精密検査で,気管支鏡による内視鏡検査を行い,気管支の中に小さな「がん」がないかを探します。X線写真やCT写真では写らないような,早期の「肺がん」を見つけることができます。

3) 宮城県の肺がん検診のはじまり
 -日本に誇る宮城方式―

1970年代までは,肺がんを対象とした対策型検診は日本では行われておらず,当時全国規模で行われていた結核検診に便乗する形で肺がん発見に努めていましたが,その発見率は満足いくものではありませんでした。
1982年,宮城県では,東北大学,宮城県医師会,宮城県結核予防会,宮城県対がん協会の協力のもと宮城県肺がん対策協議会が発足し,胸部X線検査と喀痰細胞診による対策型肺がん検診を全国に先駆けて開始しました。以下に述べるように,I期症例が多数発見され,この検診方法は,宮城方式と呼称され,現在では全国の対策型肺がん検診に用いられています。

昭和57年から始まった,宮城県における肺がん検診を報告する1986年の論文

前述の肺がん検診精度管理指標として,国から報告されている「地域保健・健康増進事業報告」の最新の平成26年度報告から,全国の肺がん検診における要精検率,精検受診率,陽性反応適中度,肺がん発見率,臨床病期I期率を見てみると,宮城県の肺がん検診は,陽精検率は全国平均同等で,精検受診率,陽性反応適中度,肺がん発見率,臨床病期I期率は全国平均を上回っており,質の高い肺がん検診が行われています。

4) 宮城県における肺がん検診の
高い発見率

宮城県肺がん対策協議会により実施された,肺がん検診受診者数をみると,胸部X線検査の受診者数は年間約25万名,喀痰細胞診の受診者は年間約15000名と,一定の精度管理で行われる検診としては,本邦のなかでも最多に属します。
胸部X線検査の受診者数の減少傾向が近年見られています。喀痰細胞診の受診者数には一定の減少傾向は認められませんが,受診者数が胸部X線検査の受診者数の10%未満で継続しており,本来は受診すべきヘビースモーカーの未受診者が少なくないことがうかがわれます。


宮城県の肺がん検診の発見率をみてみます。
胸部X線発見肺がんは発見率の増加傾向がみられます。
喀痰細胞診発見肺がんは,ヘビースモーカーに実施されるため,発見率からみると,胸部X線発見よりも高く,全国的に注目されてきました。

5) 宮城県における高い早期発見率と
肺がん死亡率減少効果

また,臨床病期I期肺がん率は,常に60%程度の発見率を示しており,肺がん検診の早期発見という使命を常に果たしている事がうかがえます。

1990年代には,宮城県の肺がん検診により肺がん死亡が54%に減少させる効果があることが,「症例対照研究」により証明され,2001年に国際的にも有名な医学雑誌に報告されました[4].同時期には,国内の他の2地域も同様な結果でした。
また,毎年検診受診することによる肺がん死亡率減少効果が証明された一方,検診間隔が一年以上となった場合には死亡率減少効果は認められず,毎年検診受診することの重要性が示唆されました[5].

宮城県における肺がん検診により,肺がん死亡のリスクが54%に減少したことを報告した論文

[4] Sagawa M, Tsubono Y, Saito Y, et al. A case-control study for evaluating the efficacy of mass screening program for lung cancer in Miyagi Prefecture, Japan. Cancer 2001;92:588-94.
[5] Sagawa M, Nakayama T, Tsukada H, et al. The efficacy of lung cancer screening conducted in 1990s: four case-control studies in Japan. Lung Cancer 2003;41:29-36.

6) 肺がん検診の受診率は50%に
達していない

検診の受診率が上がればそれだけ早期発見される肺がんが増えて,肺がんの死亡が減少することが期待されますが,肺がん検診受診率は増加しつつあるものの,全国の男女あわせて50%には達していません.できるだけ多くの方が受診して,肺がん死亡が減少することが望まれます。
注) 2016年の調査では,肺がん検診の40歳以上の男女合わせた受診率は,全国では43%,宮城県では57%でした。

・2016年 厚労省による国民生活基礎調査より
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening.html 2017/08/18


国立がん研究センター がん登録・統計
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening_p01.html 2017/08/18

7) 肺がんCT検診
 -期待される有力候補-

胸部CT検査は,胸部X線検査に比較して小さな肺病変の検出率が高いことが知られていましたが,放射線被曝等の観点から検診手法としては,まだ適さないと考えられていました。
しかし,胸部低線量CT検査という手法が開発され,被曝量が軽減された事などから検診に利用可能な状況になり,欧米や我が国において任意型検診として胸部低線量CT検診が普及してきました。
アメリカで実施されたランダム化比較試験(NLST)では,高喫煙者約53000人を対象に実施し,胸部低線量CT検査によって肺がん死亡率の20%減少を示しました[6]。
ヨーロッパでもいくつかの同様のランダム化比較試験が高喫煙者を対象に行われましたが,研究参加人数が数千人と少ないことが影響してか,胸部低線量CT検査による肺がん死亡率減少は示されませんでした。
現在ヨーロッパからは Dutch-Belgian lung cancer screening trial (NELSON)という研究参加者15000人強の高喫煙者を対象としたランダム化比較試験が行われていますが,研究結果はまだ発表されていません.このような状況のために,喫煙者に対する胸部低線量CT検診の有効性評価はNELSON 試験の結果に大きく左右される状況となっています。

[6] Aberle DR, Adams AM, Berg CD, et al. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med 2011;365:395-409

8) 低線量CT検診を科学的に評価する
 -日本のJECS study-

胸部CT検査は早期の肺がんの検出に大変有効であることが知られていますが,肺がん検診における有効性(死亡率を下げること)は日本では確かめられていません。
そこで,厚生労働省主導の国家的プロジェクトとして2010年に肺がんCT検診の比較試験:JECS Studyが立ち上げられました。2015年からは日本で医療分野の研究開発を行うために組織された日本医療研究開発機構が主導する研究班(佐川班)に発展的に引き継がれました。
JECS Studyでは,胸部CT検査を併用する検診と併用しない検診(胸部X線検査のみ)の比較試験を実施し,胸部CT検査が有効かどうかを検証します。
肺がん検診に胸部CT検査を併用することで,胸部X線検査では見つからない肺がんが見つかることを期待されますが,一方で,がんではないのに精密検査が必要と判断されて,不必要な検査をすることになってしまうことも予想されます。肺がん検診において胸部CT検査を併用することが,肺がん死亡の減少に有効かどうかは,現時点では証明されたとはいえません。

JECS Studyの重要性は,この不明な点を日本で初めて解明することにあります。また,NLSTやNELSON は高喫煙者を対象としたランダム化比較試験ですが,JECS studyは非喫煙者,低喫煙者に対する胸部低線量CT検査の有効性を検討するランダム化比較試験です。JECS Studyでは参加人数を20000人強として見積もっており,参加者数不足が原因で結果が未確定となる事態を回避するように努力しています。このような点からJECS studyは,我が国のみならず世界的に注目されているランダム化比較試験となっていると共に,有効性が証明された場合には我が国における対策型検診としての胸部低線量CT検診導入へとつながるものと考えられています。

宮城県結核予防会ではJECS study開始当初から研究に参加しております。JECS studyへの参加を希望される方,研究に興味がある方はご連絡下さい。

付)肺がん検診の有効性評価について

以下はすこし難しいところもありますが,興味のある方はご覧下さい。

<評価指標としての死亡率>
肺がん検診の目的は,肺がん死亡を減らすことです。従って,肺がん検診の評価指標には肺がん死亡率が用いられます。一方,肺がん発見率や生存率を評価指標として用いる事は正しくありません.発見率は,対象となる集団の有病率の影響を受けます。例えば,肺がんは高齢者の疾患のため,高齢者の多い集団の方が発見率は高くなりますが,肺がん検診の有効性を示すことにはなりません.また,二人の肺がん患者さん(検診を受けて発見された人と症状で発見された人)がいて,肺がんが発生してから死に至るまでの期間が同じと仮定した場合,検診受診者は,症状によって発見された方より早期に発見されるので,発見から死亡までの期間(生存期間)は長くなります。しかし,実際には肺がん発生から死亡までの期間は同じなので,生存率が高くてもがん検診の有効性を示す事にはなりません。

<評価方法としてのランダム化比較試験>
有効性評価方法として最も信頼性の高い方法はランダム化比較試験です。ランダム化比較試験は,がん検診の対象となる集団を検診群と非検診群に公平に振り分け,検診受診の有無以外のさまざまな因子が両群で偏らないようにし,両群のがん死亡率を検討してがん検診の有効性を評価する手法です。振り分けてから両群を追跡して,がん死亡の有無を調査することになるので,極めて多数の研究参加人数と膨大なコスト,長い調査期間が必要になる研究手法です。

(ランダム化比較試験 http://canscreen.ncc.go.jp/kangae/kangae4.html)

その他の有効性評価方法としては症例対照研究という手法が用いられます。症例対照研究では,がんの死亡者について過去のがん検診受診の有無を調べ,その影響を検討するものです。検診受診者は健康に関心が高い人が多く,非受診者に比較して対象疾患の罹患率や死亡率が低い可能性が有りますが,この研究手法ではこうした集団の偏りが紛れ込むことを防げず,ランダム化比較試験と比べて信頼性が低いと考えられています。一方,過去に関して調査する手法のため,ランダム化比較試験と比較して,コスト削減と研究期間の大幅な短縮ができるメリットがあります。

<日本および海外における有効性評価>
本邦の対策型肺がん検診は,1990年代に行われた複数の症例対照研究(宮城県の肺がん検診の研究も含む)においてその有効性が確認されています。毎年検診受診することによる肺がん死亡率減少効果は44%と報告される一方,検診間隔が一年以上となった場合には死亡率減少効果は認められず,毎年検診受診することの重要性が示唆されました。
一方,欧米では胸部X線検査と喀痰細胞診による肺がん検診の有効性評価をランダム化比較試験という信頼性の高い手法によって1970年代に2件行われていますが,いずれにおいても肺がん死亡減少効果は示されませんでした。これら欧米の2件の研究実施時期がとても古く,現在の医療水準とは相当に異なっていること,ランダム化で非検診群に割付けられた人の中に相当数が検診を受けていたり,反対に検診群の人でも検診を受けていなかったりしていることが知られています。
近年では,米国において胸部X線検査による肺がん検診の有効性評価をランダム化比較試験によって検討した結果が2011年公表されました。1993年から2001年に全米から15万余名の研究参加者を検診群(登録時と年1回計4回の胸部X腺検査)と対照群(何も行わず)に分けて,13年間追跡調査した結果,胸部X線検査による肺がん死亡減少効果は示されませんでした。この研究では3-4年検診してその後10-11年追跡するという計画のため,追跡期間が長過ぎて検診効果が消失してしまっているという批判があり,実際追跡5年目には検診群において11%の肺がん死亡減少効果が認められていました。
これらのことから,日本では,我が国からの報告を重視することが妥当と判断され,対策型検診として現行の肺がん検診を実施することが推奨されています。

http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/haigan.html

<肺がん検診精度管理の評価指標>
前述の通り,肺がん検診の目的は,肺がん死亡を減らすことです。従って,肺がん検診の評価指標には肺がん死亡率が用いられます。しかし,研究で示された肺がん死亡率減効果を実際に肺がん検診を行っている現場で発揮するためには,質の高い検診を安定的に行なうこと(精度管理)が必要不可欠であり,そのことを評価するための指標が提示されています。

http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/process-indicator.html
精度管理の指標には,システム指標とプロセス指標があり,システム指標とはがん検診に関わる自治体,検診機関が最低限整備すべき体制のことで,事業評価のためのチェックリストとして公表されています。

http://ganjoho.jp/med_pro/pre_scr/screening/check_list.html
一方,プロセス指標とは,それぞれの体制の下で行った検診結果のことで,精密検査を必要とされた割合(要精検率),精密検査を受けた割合(精検受診率),肺がん発見率,精密検査を必要とされた内の肺がんの割合(陽性反応適中度),発見肺がんの内の早期の割合(臨床病期I期肺がん率)が代表的なものです。これらは毎年,国から報告されている「地域保健・健康増進事業報告」から算出可能となっています。

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