診察の種明かし


 自分にとって外来診療は好きだし、緊張の場でもあります。診察は五感を働かせて患者さんの話をよく聞き、謎解きからはじまります。
 患者さんが外来の診察室に入って来たとき、「おはようございます」と声をかけて、返ってくる反応が大切です。元気のない声には、「どこか調子がわるいのですか」と訊ねるし、元気の良い声のときには、「体調がよいようですね」と言ってしまいます。歩き方や足音のリズムがいつもと違うときには直ぐに足下を見てしまいます。今日も、いつもは付き添いの娘さんよりも先に入ってくるはずのおばあさんが、ゆっくりと遅れて診察室に入ってきました。案の定、3日前より右半身がしびれていると訴えました。診てみると軽い脳梗塞が疑われ直ぐに専門病院を紹介することになりました。
 声と表情も大切です。冴えないときには何か心配事があるのでしょうか。これもまた山をかけて聞いてしまいます。表情、特に眼の表情に注意すると、性格や、悩みを抱えているか、眠れないで困っているか、などいろいろなことが読みとれます。三つ以上の多彩な訴えをするときには、自律神経失調症や不安神経症を疑います。更年期障害も話しのまえに予言者のように症状を話すとかなりの確率で的中するから不思議です。
 呼吸器疾患を診ていると、爪の色や唇の色から体の中の酸素の量が大まかにわかります。そして、爪の形がスプーン状で、さらに爪に煙草の脂(やに)がついて、身体から煙草の臭いがすれば肺気腫の可能性が高くなります。話をするまえに「坂道を登るとき息切れがしませんか 」 と占い師のごとくにおもわず口からでてしまいます。のどを診るのは風邪のときばかりではありません。のどの赤さの程度から一日の喫煙本数を10本単位で当てることもできます。聴診器や打診でなにがわかるのですかと患者さんに聞かれることがあります。肺に関しては呼吸の音を聞くことにより、気管支が痙攣をおこし、細くなって笛のような音がする喘息や、痰の存在がわかります。肺炎を起こしているときも、肺繊維症や間質性肺炎のときも、気道が腫瘍で細くなっているときも、聴診は大切です。とんとんと無造作に叩いていても、気胸や胸水の貯まった状態では打診が大切な診断法です。
 触診も大切で、背中が蝋人形のような、ぬめりのある、少しヒヤッとした感じがするときには重症の糖尿病を疑います。勿論、さわったときに熱があるかどうかは伝わってくるぬくもりでわかります。これまで、打診のときに指先に触れたしこりで数人の患者さんの乳癌を見付けたことがあります。打診時に感じ取る手の感触も大切です。
 すえた臭いがするときには、熱があってしばらく風呂に入れなかったのだろうと連想するし、肌がかさかさして、垢がついているときには具合がよほど悪くて十分な食事をとらず、入浴もしばらくできず、さらに下着の襟元が垢にまみれているときにはその人の生活そのものが孤独なのでは、と推測してしまいます。
 味覚に関しては、まさか患者さんをなめるわけにはゆきませんので、持ってきた散薬の成分を当てるにとどめています。
 五感を使った診察の種明かしをしてしまいました。検査結果は勿論大切ですが、第六感も加えて総合的に患者さんを診ることも非常に大切なことだと思っています。
 Dr.Tessie