狂牛病とBCG |
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| 健診センターに若いお母さんからの問い合わせの電話です。「今日、学校でBCGをしましたが、うちの子は狂牛病に罹らないでしょうか。大切な一人息子ですので心配でどうしても確かめたいのです。家には71歳になるアルツハイマーの義理の母もいますし、二人も痴呆がいたら私ではとても面倒を看ることができません」。 当然なこととして考えもしなかった質問と、今の世相を表すような言葉に思わずぎくりとさせられました。 狂牛病は異常プリオンという蛋白質が原因で脳が海綿のようにすかすかになる牛海綿状脳症(BSE)と呼ばれる牛の病気です。人では最近になって発見された異型クロイツフェルト・ヤコブ病の一部でそれが関連するのではないかと疑われています。7−20年の潜伏期で発病し、症状は次第に痴呆になってしまう病気とされています。牛の脳、神経、眼、腸などに集まった異常プリオンを食べると消化されずに吸収されて、体内では正常プリオンが異常プリオン蛋白に変化し、人間でもプリオン病が発病する可能性があると推測されて問題になっています。現在、牛から人への感染の有無については研究段階といえます。異常プリオン蛋白は煮ても、焼いても破壊することができないところが「ばい菌」と異なり怖いところです。 他方、BCGに関しては、1882年にロベルト・コッホ博士による結核菌発見がそもそもの始まりです。その後、人に感染する人型結核菌のほかに、結核菌には違いないが人には感染しない牛型結核菌があることが1902年にわかりました。1908年からフランスのパスツール研究所、カルメットとゲラン博士が人工的な環境で牛型結核菌を13年間にわたり230回も培養を繰り返して、病気を起こす力はなくなったけれども、結核にたいする抵抗力、すなわち免疫能力だけを残した牛型結核菌を作り、結核予防のワクチンを完成させました。これを人に接種して結核を予防する生ワクチンがいわゆるBCGです。ヨーロッパで初めて人体に使われたのは1921年です。 日本では1925年、志賀潔博士がカルメットから無毒の牛型結核菌をわけてもらい、帰国してから何回も培養を繰り返し、さらに研究を続けて1938年より人体に試験的に広く使われるようになりました。1951年からは結核予防法で0−29歳のツベルクリン反応が陽性でない人に対しBCGを接種することが定められました。 もしも、BCGワクチンのなかに異常プリオン蛋白が混ざっているとすれば、カルメットとゲラン博士が牛型結核菌を一番初めに採取した過程に問題があったことになります。けれども、牛とは関係なく牛型結核菌だけを分離して、さらに何度も洗いながらグリセリン胆汁バレイショの液で、何回も培養を繰り返したわけですから異常プリオン蛋白が混ざる余地はないと考えられます。また狂牛病は1986年に英国で初めて確認された牛の病気で、BCGはそれよりもずっと昔の話です。ちなみに人間の異型クロイツフェルト・ヤコブ病は英国で1994-1995年に10人の患者が初めて確認されています。 長年、世界中でBCG接種をして少なくとも異型クロイツフェルト・ヤコブ病が発症したという報告は見つかっていませんのでご安心ください。「牛」の字に関連したものはすべて疑わしいと考えるのは当然かもしれませんが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの感じがしないでもない。最近の言葉で表すと世の中が「ゼロリスク探求症候群」に罹っているのかもしれない。 |
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Dr.Tessie |